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 汐音の影を起点に、十メートル四方ほどが暗く染まった裏道の路上で。  その緊張感とは全く相容れない、無邪気な汐音の呼びかけに、キカリさんと男がぽかんとして振り返っていた。 「……は?」 「え――……」  その人間の、当然の反応には構わず、汐音は同じノリで続ける。 「おねーさん、これからどこ行くの? 駄目だよ、そんな悪魔の道に入っちゃ」 「……!!」  その一言だけで、キカリさんの顔が一瞬で青ざめる。  同時にキカリさんは、汐音の後ろにいるツバメに気が付き、更に混乱したようだった。 「え……ツバメ、くん……!?」  無表情のツバメに、キカリさんは何故か、今の自分を見られたくなかったらしい。  激しい自己嫌悪が込み上げ、思わず泣き出しそうになったのが、ツバメにもすぐに伝わってきた。 「華……知り合いか?」  隣の男が訝しそうに、立ち尽くしてしまったキカリさんの視線の先を追う。  それで男と目が合ったツバメは、そこから伝わった胸の悪さで、瞬時にえづきそうになった。  さてさて、と。いつもは人間と、食事前のやり取りを楽しむ汐音は、キカリさんをこれ以上揺さぶる必要はないと思ったようだった。 「『錠』は下ろしたし……あんまり力の余裕も無いし――」  ツバメが朝方に血を強奪したので、汐音の体調も良くないのだろう。  食事は早く、終わらせるに限る。その思惑がわかった直後、汐音はすぐに行動に出た。
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