16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
……ごめん、と。ツバメは一度だけ、心の中でキカリさんに謝った。
それで許されるべきことではない。けれど、相手が知り合いにせよ、ツバメには汐音を手伝うことが最優先なのだ。
キカリさんの真下、不自然に暗い道より明るいその影に、真っ暗な亀裂が突然入った。
「え――あ、や、何これぇ!?」
キカリさんの影を突き破るように、そこから暗い泥が噴き上がる。
同時に足元が沼のようにぬかるみ、バランスを崩して腰をついたキカリさんを、噴き出した暗い泥が一瞬で取り込んでいった。
「な……え、華、華!?」
小さな鞄だけを残し、底無し沼に沈むように、キカリさんは泥の中に消えてしまった。それが汐音の「食事」で、昨夜のバイクの男も同じ運命を辿ったはずだった。
「はーい、ごっそーさん。結構なお手前でございました」
最早本来の「吸血鬼」とはかけ離れた、「悪魔」である汐音。それが好むのは、キカリさんのように、悪魔になりかけた人間だという。
「そんな――お前ら、華に何したんだ!?」
人間にはまず、理解不能な光景だろう、男の質問は当然のことだった。ツバメにも、汐音が何故キカリさんを悪魔とみなしたか、わかるようでわかっていない。
ツバメにわかったのは、ただ――
キカリさんも、昨夜のバイクの男も、「選択の狭間で酷く揺らいでいる」者同士なことだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!