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 ……ごめん、と。ツバメは一度だけ、心の中でキカリさんに謝った。  それで許されるべきことではない。けれど、相手が知り合いにせよ、ツバメには汐音を手伝うことが最優先なのだ。  キカリさんの真下、不自然に暗い道より明るいその影に、真っ暗な亀裂が突然入った。 「え――あ、や、何これぇ!?」  キカリさんの影を突き破るように、そこから暗い泥が噴き上がる。  同時に足元が沼のようにぬかるみ、バランスを崩して腰をついたキカリさんを、噴き出した暗い泥が一瞬で取り込んでいった。 「な……え、華、華!?」  小さな鞄だけを残し、底無し沼に沈むように、キカリさんは泥の中に消えてしまった。それが汐音の「食事」で、昨夜のバイクの男も同じ運命を辿ったはずだった。 「はーい、ごっそーさん。結構なお手前でございました」  最早本来の「吸血鬼」とはかけ離れた、「悪魔」である汐音。それが好むのは、キカリさんのように、悪魔になりかけた人間だという。 「そんな――お前ら、華に何したんだ!?」  人間にはまず、理解不能な光景だろう、男の質問は当然のことだった。ツバメにも、汐音が何故キカリさんを悪魔とみなしたか、わかるようでわかっていない。  ツバメにわかったのは、ただ――  キカリさんも、昨夜のバイクの男も、「選択の狭間で酷く揺らいでいる」者同士なことだけだ。
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