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「誰か、誰か助けてくれ!! 変な奴らがいるんだ!!」  人通りの無い暗い路上で、突然連れが消えた男が大声で叫ぶ。それは「悪魔狩り」ではいつものことだった。  汐音は慣れたもので、うろたえる男を冷酷に見据える。 「無駄無駄ー。オレの食卓には、普通の人間は入れないよ」  四方に広がり、今も道を暗く染めている汐音の可変の影。その正体は、先程キカリさんを取り込んだ泥――汐音の「力」を受けて変容した「土」の元素に他ならない。  この影は人払いもかねており、内にいれば誰かに目撃される心配もないらしい。こうした自らの影の領域を、汐音は「錠」と呼んでいた。 「多分、ツバメくらいじゃないかな、ここを開けられるのは」  これでも五分の一以下の出力といい、汐音がどれだけ強力な悪魔か、ツバメはいつも思い知らされる。  その汐音が、自らの助手として選んだ者。汐音の血を分けられなければ消えるだけだったツバメは、怯える人間の男に何の感傷も持たずに、成り行きを見守る。 「そんな……華を返せよ! 華をどうしたんだよ!!」  この奇妙な状況で、一目散に逃げようとしないだけでも、男は度胸がある方かもしれない。  しかしそれだけ、キカリさんの存在が、男にとっては重大問題なのだと――  汐音はそこで、これまでの無邪気さを消すと、あくどいばかりの笑みをたたえた。 「……そんなにも、あのおねーさんがいないと、おまえは困るの?」  汐音の蒼い目に霜が降りた。それはキカリさんにも、昨夜のバイクの男にも向けなかった、強い嘲りだった。
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