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人間の男の目には、黒髪の高校生にしか映っていない汐音。
けれどこれこそ、ツバメがよく知る姿だ。
青白い月夜にツバメと契約を交わした、あの青闇の吸血鬼の――
――お前はそのまま……消えたいの?
男の視界がわかるように、周囲にあるものと感覚を共有してしまうのが、ツバメの生まれついての「直観」だった。
自他の区別が曖昧なツバメには、自分を守ることは、人を守ることだった。
人が痛ければ、自分も痛い。実際に、同じ痛みを感じさせる「直観」なのだ。
――人に人は、救えないよ。お前の望みには、無理があるよ。
人は、誰もが穴だらけと感じ、ツバメはそれを埋めたくて生きてきた。何しろ人が嬉しければ、そのまま自分も嬉しいのだから。
それが唯一、自身にできる「仕事」――生きる糧である気がしていた。
けれど、ツバメは無力で駄目な奴だった。自分の力では、何一つまともに成し遂げられない。そうして己に、愛想が尽きていたのだが……。
――オレにはお前は、使える奴なんだけど。
「誰かの都合で造られた」汐音は、出会った頃には情が乏しく、純粋に利害の一致でツバメを選んだ。それはできることの少ないツバメに与えられた、確かな居場所だった。
しかし再会してから、汐音は妙に感情豊かになっている。
それだけでどうして、こんなに不安が湧き起こるのだろう。
ふと、背中を刺すような冷感に襲われたツバメは、汐音の後ろ姿をじっと見つめていた。
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