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キカリさんを取り込み、食事は終わったはずなのに、汐音がまだ人払いの影を収めようとしない。
不思議に思っていると、おののく連れの男を嘲笑するように、冷たい声色で喋り出した。
「そんなに困るかなー。借金してても死にゃしないのに、自分の彼女を売りに出すほど?」
え。とツバメが様子を見ていると、驚く男を前に、汐音は更に続ける。
「オレは別に、風俗が悪いとは思わないけど。嫌がってる彼女を、ムリムリ連れていくものかな、普通?」
男は唖然とすると、当初の雰囲気が嘘のように、突然口汚くなっていった。
「な……何でてめぇに、どうこう言われなきゃならねーんだ!」
見も知らぬカップルのことに、わざわざ物申す汐音の意図が、ツバメもさっぱり理解できない。
キカリさんの事情がそういう事だったのかと、納得はできた。
「おれと華は、二人でここを出るって決めてんだよ! 金がいるんだよ! 華みたいなグズは、おれがいなきゃ駄目なんだよ!」
都会に行きたいのは、この男……彼氏の方なのだろう。キカリさんはそれを、叶えたかったのだ。けれどおそらく、限界を感じていたのだろう。
うわー。とやたらにニヤニヤしている汐音が、男は気に障ったようだった。
「他人が口出しすんなよ! ってーか、華を返せよ、糞ガキ!」
キカリさんの前では、最初のように穏やかなのかもしれないが、どちらにせよ身勝手なのは同じだった。
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