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この町は、特別田舎ではなく、ツバメの妹が通う高校のある都市の郊外だ。
何が悪いのか、ツバメにはさっぱりわからない。そしてこんな男のどこがいいのか、それも不可解だった。
「それじゃ、ツバメ……あのおねーさんの『声』、聴かせてあげれば?」
ここで何故か、ご指名が来てしまった。
汐音はツバメに、「体を売れ」と言っているのだ。
「…………」
それはするな、と言われてきている。しかしツバメも、自称「駄目人間」のキカリさんの心情は、気になってしまい……。
キカリさんが暗い道に残した、傷んだ鞄をツバメは拾う。古いがお気に入りのようで、その鞄で出勤する姿を何度も見かけた。
それで汐音は最初から、これを媒介……「キカリさん」とみなして、場に残したのだろう。
思い入れのある物には、魂が宿る。人の魂をも奪うという悪魔の汐音は、常々そう言っていた。
そしてツバメは、本来なら消えていた古の鬼……この体に憑りつく、人ではない死者なのだから――
『…………』
生まれ持った直観が織りなすという、ツバメの「七色の声」。キカリさんの鞄を抱きしめ、俯いて陰になった口元から、その通称以上の特技が零れ出てきた。
『……、やだあ……』
顔を伏せたツバメから、拙く発せられた声は、彼氏の男が驚いてツバメを見た通りに――まぎれもなく、キカリさんと全く同じものだった。
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