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何の話を、しているのだろう。ツバメはまず、そう思った。
そもそも、とうに日は暮れ、食事も終わっているのに、彼らは何故まだここにいるのだろう。
ツバメの中で、数刻前のあの不安が、再びどんどんと膨らんでいく。
「自分が悪魔だって――自分で知ってる悪魔って、どれだけいると思う?」
焦りながらも、は? と呆ける男は、ずっと汐音に睨みをきかされ、その場から動くこともできない。
冷たい顔付きに軽蔑を隠さない、汐音のこんな感情は、ツバメはほとんど目にしたことがなかった。
「どっぷり悪魔なんて、美味しさの欠片もない。やっぱり美味しいのは、キレイなところを残した人間なんだよね」
だから――と。最早声も出せずに固まる男を、汐音の禍々しい視線が射抜く。
「オレは、成り立てほやほやの、人間くさい悪魔が大好きでさぁ?」
それはツバメも、何となく知っていた。汐音はいつも、悪魔になりそうに揺らぐ、葛藤中の人間しか喰わないのだと。
本当は人間が欲しいのだろう。しかしそれでは、不干渉の律に大きく引っかかる。討伐対象として槍玉に上げられてしまう。
喰らう相手が悪魔の定義を何とか満たせば、糾弾されにくいだけの話だ。
でも、と汐音はやっと、男と話し続ける意図を明らかにした。
「たまにはオレも、『処刑人』らしいこと、しようかなーって」
最近、暇だから。そう言わんばかりの、汐音の久々の臨戦態勢を、ツバメはすぐに感じ取った。
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