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 汐音は吸血鬼だが、悪魔としては、「悪魔を殺す処刑人(Alastor)」の名を冠する。つまり、悪魔を殺せばこそ、悪魔としての定義を満たすらしい。 「おまえはまあ、わりとよくある、普通の悪魔だから」 「……!?」 「おまえがどんなに醜いか――見せてやるよ」  男だけでなく、ツバメも唖然とする前で、汐音の背中に大きな「力」が具現する。  透明の珠を核とする白い翼と、双角錐の黒い石を核とする(くろ)い翼。  全く違う形で、対になったそれらは、この人間界で目にするとは思わなかった――汐音ならではの、強大な「力」だった。 「汐音、何……!?」  驚くツバメにかまわず、汐音が黙って虚空に左手を掲げる。左側の白い翼が、それに呼応するように、暗闇の中で煌めき始める。  翼の発する光で、汐音の開いた左手が落とす影は、へたり込んだ男の影にちょうど重なり―― 『父と子と、聖霊の御名において』  ぞくりと、ツバメの背筋を、突き刺すような寒気が駆け抜ける。  汐音はまるで、自身の手の影で人間の男の影を掴むように、ぐっと強く左手を握る。 『主は常に、汝らと共に』  これはいったい、何の悪い冗談だろう。ツバメの体からみるみる力が抜けていく。  そして汐音の影が掴んだ男の影から――汐音はそれを、引きずり出したのだった。 『汝の犯した罪を認めよ――我が兄弟よ』  怒涛のごとく、地中からそこに現れたのは、いかにも悪魔といった怪物状の泥塊だった。
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