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「はっ……はああああ!?」  叫びながら、人間の男が失神した。目前の光景がついに、許容量を超えたらしい。 「って……えええええ!?」  ツバメも思わず、叫んでしまう。この人間界では初めて目にした、異形の怪物。  泥でできたそれは、「錠」と同じで汐音の「力」によるとはわかるが、わざわざそんなものを造った汐音の意味がわからなかった。 「うわー! ほんとにできた、やるじゃん、オレー!」  無邪気に喜んでいる汐音の後ろで、ツバメはぺたんと、へたり込んでしまった。  状況が全くわからないこともあるが、それ以上に、ダメージの大きい緊急事態があった。 「待って、汐音……なに、それ」  へ? と振り返った汐音が、這いつくばっているツバメにようやく気が付く。 「あれ? 何してんの、ツバメ?」 「それ、俺の、台詞……なに、さっきの……」  顔を上げることもできないほど、体に力が入らない。その異変は、汐音がこの怪物を引きずり出すために唱えた、謎の詠唱の効果だった。 「それ、聞いてない……ってか、俺にも、効いてる……」  汐音のそんな「力」は、ツバメは初めて目にしたものだ。そもそも汐音は「力」を使う時に、滅多に詠唱などしないのだ。  あ――と。やっとわけがわかったように、汐音が明るく笑っていた。 「そっか。オマエも一応、吸血鬼だもんねぇ?」
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