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 汐音の食卓の内とはいえ、人目につかないか心配になるほど、巨大な泥土の怪物が重く咆哮する。  それを前にしてへたっているツバメに、白玄の翼を背後に浮かべる汐音が、あちゃー。と気軽に頬をかいた。 「さすがに、『祈りの(ことば)』はまずかったかぁ。そりゃまあ、吸血鬼に十字架つきつけてるようなもんだしねぇ、これ」  何やらとても、聖なるものらしき単語を口にしている。  ツバメには一応、聖水といった類の物質的な祓いは効かないのだが、その「言」は事情が違ったらしい。 「せっかくの新技なのにー! ヒドイ!」  酷いのは、どっちだ。その程度すら言えないほど、ツバメはへたり込んでしまった。  そしてやっと、汐音に感じていた不安の正体がわかった。  それはまさに、この「新技」の存在……ツバメを脅かす汐音の新たな「力」だった。  汐音は様々な「力」を使う。背後ではためく、白玄の翼然り。「力」の種類が多過ぎて、扱い切れずにツバメを雇った――その「力」を分けた経緯がある。  しかしまさか、こんなに強力な「聖」を持つとは思わなかった。  吸血鬼として出会い、更には悪魔である相手なのだから、想定外にもほどがあった。  そして、汐音とツバメを見下ろす怪物を前に、汐音は気が付いたようにポンと手を打った。  「それじゃ、退魔用の祈りも、使うと駄目っぽい?」  当たり前だ! と……それだけは必死に、即答したツバメだった。
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