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 人間界という所には、「不干渉の律」がある。救いも危害も、「人ならぬ力」で与えてはいけないのだと汐音は言っていた。それが神を否定した世界であると。  他の世界の生き物は、人間を侵してはならない。違反者は勿論いるが、それでもツバメの故郷よりは安全だった。  安全なはずの場所を、自ら危険にした汐音は、反省など皆無のように見えた。  しかしツバメを守る気はある。だから、切り札らしき「祈り」を使わないのだろう。 「あーもー! 服が汚れるだろ、これー!」  泥土の怪物から噴出する泥流が、彼ら二人をめがけてどぼどぼと襲い来る。創造主の汐音に遠慮する気配は全く見られない。  汐音が咄嗟に、銀の腕輪をはめた右手を泥流に向かってかざす。それは汐音の武器の封印形なのだが、その形でも魔除けの効果があるのだという。  汐音の右手を中心に、その後ろのツバメまで守る壁があるように、泥流が周囲にはじかれていく。  防御だけならそうして何とかなるが、怪物を倒す算段は何もなさそうだった。 「もー! 『錠』も外して、オレ達だけ逃げよっかー?」  無責任な汐音は、人払いをやめ、怪物も放置しようと言わんばかりだ。  けれどツバメは、それに頷くわけにはいかなかった。 「ダメだ……商店街がなくなったら、仕事がなくなる」  この裏道――商店街の間近で怪物が暴れ回れば、その結末は想像に難くない。  それでなくとも、怪物創造の責任者として、汐音が何かから狙われる気がする。  雇い主の汐音には無事でいてもらわないと、ツバメは「仕事」をなくして困る。汐音の日常を守ることこそ、ツバメが請け負った全てなのだ。
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