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迷い一つすらも、することはなかった。
目前にある汐音の背に向かって、ツバメは問答無用に、その最終手段を鷲掴みにした。
「って――ツバメ、オマエねええ!?」
うぎゃああと汐音が、電撃が走ったかのように身をよじって体を竦ませる。
それもそのはず、汐音の右背に浮かぶ玄い翼を、ツバメが容赦なく引き千切ったからだ。
「借りるぜ。汐音は後ろで、引っ込んでな」
今の汐音の翼は、背から直接生えているわけではない。肩甲骨の後ろ辺りで、どちらの翼も硬い鉱物を起点に、宙に浮いている。
それでも汐音に繋がる翼であることに変わりはない。それを分離できるのは、汐音と契約するツバメならではの荒業だった。
無闇に千切りとった玄い翼は、一見はコウモリのような羽の集まりだ。四つの大小とりどりの羽が、個別に黒い石にくっついている。
「……!」
「力」の塊である核の石を、無理に掴んだツバメの右手は、その時点でどろりと溶け出していた。
そのまま互いにくっつき、まるで羽の一つ一つが大きな指のように、玄い翼がツバメの右手と化する。
「このバカ、それなら退魔の方がマシだってーの!」
翼をもがれた右肩を押さえ、珍しく膝をついた汐音が、前に出たツバメの背中を怒り顔で見上げていた。
ツバメは全くそれに構わず、先程までの微笑みも消し、再び泥流を放とうとする怪物を無機質に見据える。
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