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駄目人間、という言葉を、山科燕雨はこの町に来て初めて知った。
使えない者、役立たず。そのニュアンスを感じて、彼はすぐに気に入った。
ちょうどそれは、ツバメ自身と、この春からの同居人にぴったりだと思ったのだ。
「俺と汐音は、駄目人間?」
「ぶー。オレ達は人間じゃないから、その言い回しは不適切だねー」
山に面する郊外の、安アパートの一室で。寝間着の同居人――汐音の休日は、連れ込んだ野良猫と日がな惰眠を貪って終わる。
お世辞にも有用といえない体勢の汐音は、人間にはない青銀の短髪を横向きに枕に押し付けて、そのまま楽しげに反論してきた。
「そもそもオレは、オマエの役には立ってるだろ? だったら駄目じゃないね」
「そうなのか。俺なんていても無意味だし、それを存在させるのも無駄かと思った」
あくまで素直に、ツバメはありのままを口にする。彼にはそれは、悪意ではない。自らが無価値と信じているのは昔からだ。
雇い主の汐音もわかっているのか、いつも通りに軽い口調で返す。
「オレみたいなヒトは、ただの廃人って言うの。そしてオマエみたく、可愛いお嫁さんがいるくせに自虐な奴は、リア充の陰キャラって言うの」
それはどうやら、長年独り身の汐音には褒め言葉らしい。
この町で一人暮らしは無理という汐音のために、単身でここに来ざるを得なかったツバメは、溜め息をつくしかない。
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