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 身も蓋もないことを言えば、汐音は甘い。ツメも性格も、「処刑人」としての対象の見切りも。 「……あれなら、一回で殺せる」  呪われたバンダナを手放さないツバメこそが、真のヒト殺しだ。何かを殺すことにおいては、相手の状態を感じ取れるツバメの直観ほど、的確に導いてくれるものはない。  そして更に、棘つきの黒いチョーカーは、ツバメの視力を上げる形で直観に寄与してくれるのだ。  あまり長く、動くことはできない。そもそも今はテンションを上げて、不調を誤魔化しているだけだ。  冷静に、泥の怪物を構成する「力」の流れを観て、それを断つための核心を探る。  己の意思以外は、ほとんどの「力」が借り物である、古の鬼――  敵に踏み込む隙を見てとった瞬間、もう一度だけ、今度はツバメ本来の笑みがこぼれた。 「俺は……――殺したい」  楽しくて仕方がない。これだからツバメは、汐音の下での「仕事」がやめられない。  平和な人間界に来て燻っていたのは、どうやら汐音だけではなかったらしい。  ツバメの特技は、殺すこと――命に触れること。人にとり憑き、またとり憑かれること。  その結果など、もうどうでも良かった。いちいち考えない汐音が妥当だ。  有りふれた日常を越えて、ヒトがやり甲斐を感じられるのは、己の特性を活かせている時。生まれてきた意味を「仕事」で発揮できるなら、それは願ってもない幸運だろう。  日々の秩序を壊したその先に、どんな結末が待っていたとしても。
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