16人が本棚に入れています
本棚に追加
身も蓋もないことを言えば、汐音は甘い。ツメも性格も、「処刑人」としての対象の見切りも。
「……あれなら、一回で殺せる」
呪われたバンダナを手放さないツバメこそが、真のヒト殺しだ。何かを殺すことにおいては、相手の状態を感じ取れるツバメの直観ほど、的確に導いてくれるものはない。
そして更に、棘つきの黒いチョーカーは、ツバメの視力を上げる形で直観に寄与してくれるのだ。
あまり長く、動くことはできない。そもそも今はテンションを上げて、不調を誤魔化しているだけだ。
冷静に、泥の怪物を構成する「力」の流れを観て、それを断つための核心を探る。
己の意思以外は、ほとんどの「力」が借り物である、古の鬼――
敵に踏み込む隙を見てとった瞬間、もう一度だけ、今度はツバメ本来の笑みがこぼれた。
「俺は……――殺したい」
楽しくて仕方がない。これだからツバメは、汐音の下での「仕事」がやめられない。
平和な人間界に来て燻っていたのは、どうやら汐音だけではなかったらしい。
ツバメの特技は、殺すこと――命に触れること。人にとり憑き、またとり憑かれること。
その結果など、もうどうでも良かった。いちいち考えない汐音が妥当だ。
有りふれた日常を越えて、ヒトがやり甲斐を感じられるのは、己の特性を活かせている時。生まれてきた意味を「仕事」で発揮できるなら、それは願ってもない幸運だろう。
日々の秩序を壊したその先に、どんな結末が待っていたとしても。
最初のコメントを投稿しよう!