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次の泥流が放たれる直前、ツバメは地面を蹴った。
絶えない泥の噴出口が、この怪物の「力」の源。
巨大な爪のごとき黒羽の右手で、ぽかりと口を開けた怪物を、上段から地面まで引き裂いてやった。
「ただの空想に戻れよ――薄汚い、糞虫」
その一閃だけで、怪物はざああっと、あえなく崩れ始めた。まるで灰になるように、暗い虚空に泥が撒き散らされていく。
それでもべったりと、ツバメが浴びた泥が消えない。不快げに顔を拭いながら、怪物の最後を無情に見届ける。
汐音が具現したものは、恋人を売るような者はこれぐらい醜い。という、空想上の悪魔の毒だ。
こうして空に葬ったところで、その源はなくならない。彼氏を直接殺せば別だろうが、そこまではツバメの役目ではない。
やがて、怪物と共に塵に還るように、暗い路上を覆う影も共に消えていった。
これで、今夜の悪魔狩りは、本当に終わったのだと示すように。
バンダナとチョーカーを外すと、はあ……と、一瞬で酷い疲労が込み上げてきた。
座り込んでしまう前に、右手と同化した玄い翼を、思い切って一息に引きはがした。
「っ――……て、ぇ……」
この痛みに耐える気力は、今しかないだろう。こんな巨大な右手を持って、人目につくわけにはいかないのだ。
ツバメから離れた玄い翼は、すぐさま主を思い出したように、黙って立っていた汐音の背に戻る。
そうして、形も色も違う白い翼と共に、汐音の内に消えていった。
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