_7:

7/10
前へ
/190ページ
次へ
 気絶している男は放置して、ぐったりと倒れかけたツバメを、汐音が抱えて元の裏路地に運び込んだ。  古い建物の外階段に、ツバメは座らされる。ぐだぐだになってしまった右手を、膝立ち状態の汐音が黙って診てくる。  右手の痛みもさることながら、元々の不調のせいなのだろうか。テンションが元に戻ったツバメは、それからずっと、酷い吐き気に襲われていた。  いかにも不機嫌そうな汐音が、よくわからないことを、ツバメの全身を見つめて問いかけてきた。 「……最近、誰かと会った? ツバメ」 「……?」  別に、と答えると、納得がいかなさそうに首を傾げている。  そして、翼を千切ったツバメを怒る前に、意外なことを難しい顔で口にしていた。 「あのさ。今――体、悪くない?」 「……へ?」  言い回しは違うが、要するに汐音は、ツバメの吐き気に気が付いている。そして何故か、強く懸念している。  それが何を示しているのか、この時のツバメは、ほとんどわかっていなかった。 「さっきのアレは、あの人間の血から造ったんだけど……『(しん)(けつ)に宿る』って言ってね、不味そうな奴らの血なんて、触れないにこしたことはないんだけどさ」  それを聞いてやっと、汐音があの怪物を造った意味がわかった。  悪魔狩りの一つとして、相手の血を奪いはしたが、食べずに始末する方法を実験したかったのだろう。  だから汐音は、その怪物の泥――血を間近で浴びたツバメに何か影響がないか、気になっているのだ。 「とりあえず、見た目だけは治しとくけど……当分右手、動かないよ」  玄い翼を借りたツバメの暴挙を、とても怒っているものの、汐音は何も言わなかった。  ツバメに怒っているというより、状況に怒っている。何でこうなるの、と、様々な想定外の事態が不服らしい。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加