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気絶している男は放置して、ぐったりと倒れかけたツバメを、汐音が抱えて元の裏路地に運び込んだ。
古い建物の外階段に、ツバメは座らされる。ぐだぐだになってしまった右手を、膝立ち状態の汐音が黙って診てくる。
右手の痛みもさることながら、元々の不調のせいなのだろうか。テンションが元に戻ったツバメは、それからずっと、酷い吐き気に襲われていた。
いかにも不機嫌そうな汐音が、よくわからないことを、ツバメの全身を見つめて問いかけてきた。
「……最近、誰かと会った? ツバメ」
「……?」
別に、と答えると、納得がいかなさそうに首を傾げている。
そして、翼を千切ったツバメを怒る前に、意外なことを難しい顔で口にしていた。
「あのさ。今――体、悪くない?」
「……へ?」
言い回しは違うが、要するに汐音は、ツバメの吐き気に気が付いている。そして何故か、強く懸念している。
それが何を示しているのか、この時のツバメは、ほとんどわかっていなかった。
「さっきのアレは、あの人間の血から造ったんだけど……『心は血に宿る』って言ってね、不味そうな奴らの血なんて、触れないにこしたことはないんだけどさ」
それを聞いてやっと、汐音があの怪物を造った意味がわかった。
悪魔狩りの一つとして、相手の血を奪いはしたが、食べずに始末する方法を実験したかったのだろう。
だから汐音は、その怪物の泥――血を間近で浴びたツバメに何か影響がないか、気になっているのだ。
「とりあえず、見た目だけは治しとくけど……当分右手、動かないよ」
玄い翼を借りたツバメの暴挙を、とても怒っているものの、汐音は何も言わなかった。
ツバメに怒っているというより、状況に怒っている。何でこうなるの、と、様々な想定外の事態が不服らしい。
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