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全く――と。本日一番の不満を、汐音はその後に口に出した。
「何でオマエに、祈りが効くの? オマエ、神様なんて信じてないだろ?」
「……?」
「信じてないなら、神の奇跡は無意味なんだよ、ツバメ。この世界の吸血鬼に十字架が効くのは、そいつらが元々、神の下にあったからさ」
よくわからないが、それで汐音は新技とやらの、ツバメへの影響を想定していなかった。
それがなければもっと簡単に、あの怪物も処理できていた。あくどいくせに甘い汐音は、不調のツバメを戦わせるつもりはなかったのだ。
やはり汐音は、出会った頃のドライさに比べて、相当変わってしまっている。
ツバメはそんな汐音に対して、苦く笑いかけるしかない。
「確かに俺は……信じては、ないと思うけど」
その汐音の甘さ自体は、ツバメに手を差し出してきた時からわかっていた。
「『神』がいるのは、それは、知ってるし」
汐音にあまり情が移ってしまうと、何故か良くない気がする。
ツバメはすぐに、目前の相手の感情に引っ張られる。汐音がドライでいてくれればこそ、ツバメも淡々と関われるのだ。
きっとその関係が居心地良かったので、僅かな不安が消えないのだろう。
「汐音こそ、いつからそんな『力』、手を出したんだよ?」
ツバメを覗き込む蒼い目を見ると、そこに浮かぶのは、困ったように笑うツバメの姿だった。
汐音自身の感情は、何かが芽生えているのはわかるが、結局掴めそうにない。
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