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 軽く溜息をついた汐音に、ツバメは違和感をそのまま尋ねる。 「何でそもそも……汐音が、『祈り』?」 「ふーん。吸血鬼が『神』を信じてちゃ、おかしい?」  あっさり返す汐音は、ツバメの質問の意味……「神の奇跡」は、信じていなければ使えないと言った汐音そのものへの疑問を、無駄なく汲み取っていた。  ツバメには、どう見ても汐音に、「神」の威を借りられる信仰があるようには思えなかった。  それをわかっているように、汐音はそこで、いつになく儚げに笑った。 「……オレも、オマエと同じかな。神様はいるって、思ってるよ」  ふっと、今までツバメを鋭く見ていた蒼の目が、柔らかに淡く細まっていく。  無邪気さも警戒も抜け、その拙い笑顔に、思わずツバメは息を呑んだ。  こんな表情は、この人間界に来てからも、今まで見たことのなかったもので―― 「でもオレは……神様に、救ってはいらないんだ」  まるで今にも消えてしまいそうに、素朴な声で言っている無防備な汐音。  その言葉はきっと、紛れもなく、何も飾らない本心だった。  それは最早、ツバメには全く追いつけない、汐音の何かの変質だった。  仕方ないので、理解できる範囲に何とか落とし込む。 「神をも利用する、悪魔……そんな感じか?」  その言い草を聞くと、汐音もいつもの顔に戻って笑った。 「そっ。どうせ『力』があるなら、使いこなせるにこしたことはないしね」  多様な「力」を背負う汐音は、敵も多いという。そこに初めて、助手として認めた相手が、ツバメという猟犬なのだ。
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