16人が本棚に入れています
本棚に追加
汐音が大分、無理に「力」を分けたのだろう。思ったよりも回復してきたツバメに、汐音はそもそもの疑問を、そこで投げかけてきた。
「悪魔って――何だと思う? オマエは本当に、悪魔と戦っていたの?」
悪魔狩りをしている汐音。それにこれからも従うのかと、その蒼い目は問いかけてくる。
ツバメは特に迷うことなく、さらりと答える。
「さあ? 汐音が悪魔だと言う奴を、俺は倒すだけだし」
ツバメにとっては、その「仕事」があるだけでいい。内実はどうでも良いツバメを、表情を消した汐音が見据える。
「それは思考放棄だよ、ツバメ。それこそが悪魔の――……オマエみたいな奴をこそ、悪魔は好むんだからね」
「ふーん……汐音みたいに?」
何気なく適当に返したら、何故かツバメをじっと見ながら、汐音は不服そうに黙り込んでしまった。
どうやらそれは、ツバメが思っているより、ずっと真面目な質問だったらしい。
それでもようやく、気力の戻ってきたツバメには、今気になっていることは一つだった。
「まいったな……これで俺、九時から、仕事やるのか……」
昼間に商店街の人間と約束した、店卸しと言う仕事。それは果たして、泥に汚れた状態で、右手が動かなくてもできることだろうか。
時間はちょうど、もうすぐ約束の頃合いになる。汐音が頑張って回復してくれた分、ツバメも何とか踏ん張りたかった。
でなければ汐音の日常を守れない。契約を守るためなら、できることは全部する――それがツバメの日常なのだから。
その後は先に帰るまで、汐音は裏路地で黙り込んでいたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!