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キカリさんはツバメに、お茶を飲んで一休みしていくように勧めた。
「ツバメくんは真面目だから、ちょっとはさぼらなきゃダメだよう!」
店主から聴いた話、何でも同棲していた彼氏が急に入院し、キカリさんは一人で心細いだろうということだった。
彼氏の入院自体は数日で済んだが、費用が支払えない上に常時の看護も必要だと、実家に戻ったという。その時キカリさんは彼氏の家族から責め立てられて、別れろと言われたといい、彼氏の荷物をまとめて相手先に送ったばかりらしい。
結局お茶は遠慮して、玄関での立ち話になったが、キカリさんはずっと嬉しそうにしていた。
「……別れたのに、キカリ、落ち込んでないのか?」
「あー、みんなそう思ってるんだぁー。だからこんな差し入れするんでしょー」
それで休んでるわけじゃないよう! と、青い顔色で大きく主張し、ツバメもそうだな、と納得して頷く。
キカリさんは清々しい顔で、最後に寂しげに笑った。
「自分から別れるのは、嫌だったよぉ。だって、私みたいな駄目人間に、人を振れる資格なんてないんだもぉん」
この調子だと、復縁を迫られたら頷いてしまうかもしれない。それはさすがに止めようと、ツバメはコーポを後にしながら思う。
差し入れの後は、少し用事があると店主に伝えているので、商店街とは違う方向に歩く。キカリさんの家は意外に、ツバメの目的地から遠くない所にあると、昨夜に汐音が教えてくれた。
初めての道を慎重に行っていると、思わぬ相手に出会うことになった。
「あ! この間のにーちゃんじゃんか!」
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