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 振り向くと、路傍にバイクを止めた人間の男が、ツバメに向かって駆けてきていた。 「にーちゃん、大丈夫だったのか!? 元気そうだな!?」 「あ」  先日ツバメを撥ねた男が、バカ正直に、見かけたツバメに寄ってきている。  騒ぎにしていないのだから、無視していれば良いのに、無事の理由をどう言い訳しようか逆に悩んでしまう。 「本当ごめんな! ちょっとの間でも、逃げようって思っちまった自分が恥ずかしいわ!」 「いや……それ……きっと、悪い夢だから」  苦し紛れにそう言うと、男がぽかんとする。少し後に、確かになあ! と、朗らかに笑い出した。 「そういやおれ、気が付けば泥んこで道端で寝てて、大変だったわー。体調もわりいし、お互い気ぃ付けんとなあ!」  キカリさんも先程、ツバメが出てくる不思議な夢を見たと言っていた。あの日のことはそれぐらい、記憶が朧気のようだった。  寝間着姿も、風俗店に向かう自分も、ツバメには見られたくなかったらしい。そこまで口にはしないが、夢の話なのに大きく苦笑っていた。  人間でないツバメと汐音は、人間界で大きな事をするわけにはいかない。人間ではないと、人間に知られるのもまずい。  この世界では、そんなものは無いことになっている。空想になど頼らない、それが「駄目でない」人間の誇りかもしれない。その秩序を乱せば、それこそ「神」の使徒にでも裁かれてしまう。  バイクの男を何とかやり過ごして、まだ本調子ではない体で、ツバメは汐音に言われた場所に向かう。
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