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 汐音の言う通り、人間ではないツバメは、自身が何歳なのかもよくわからない。  無造作な短い金髪に、平坦な漆黒の目。左腕にいつも巻く黒いバンダナと、首に揺れる蝶のペンダント。  鍛えてはいるが細い体は、山科家に養子に行った頃に成長が止まり、無袖の軽装が似合う外見は十代後半に見えると言われる。人外生物とは言っても名も無い弱小な雑種で、幼い頃に攫われた妹を助けることに酷く長い時間がかかった。  汐音に出会い、養子に行ってからは至って平和に暮らしており、この町に来るまでは雀鬼と呼ばれていた。友人の雀荘を手伝っていたのだが、ツバメには生来の勘の良さ――「直観」があり、大概の相手には負け知らずだった。相手の様子を少し見聞きしただけで、まるで心を読んでいるようだと、友人には言われたことがある。  その友人達と、バンドを組んでいた時期もある。「七色の声」と呼ばれたツバメはかなり重宝されていた。そんなものが役に立つのは、平穏で退屈な時代くらいだ。  他に特別能の無いツバメは、養家で守られて暮らし、普通に働く苦労を知らない。ここに来てからは、自立した日常生活がいかに難しいかを感じる毎日だった。  汐音の連れ込んだ猫に餌を用意すると、これが買い置きの最後の缶詰だと、少し気分が重くなった。  それなのでつい、無表情にツバメは尋ねる。 「駄目人間じゃないなら、俺は、廃人でもないのか?」 「のんのん~。どうしても蔑称がほしいなら、オマエはオレの『ツバメ』だね。意味は後で、誰かにきくといいよ」  いつも無駄に明るい汐音に、別に腹が立ったことはない。  ただひたすら、不思議だった。何もしなければ、状況はどんどん悪くなっていく。猫缶も買えないし、猫を連れ込む部屋の家賃も払えなくなるのに、どうしてずっと気楽に眠っていられるのかと。
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