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 今日は土曜日なので、汐音は午前中、高校にいる。終わったら自分も行くからと、必ずそこに向かうようにツバメに念を押した。  仕事中の休憩を長くもらうのは心苦しかったが、店主は快諾してくれ、どうやらツバメが病院に行くと思っているらしい。  それもそのはず、ツバメが行けと言われたのは、ある住宅街の一角――「橘診療所」という施設を内包する、大きなお屋敷だった。  そこはそもそも、ツバメをこの人間界に来させた、始まりの場所とも言える。  塀に囲まれた屋敷で、正門から最初に続く診療所までは、誰でも出入りができる。  ドアを開けると、左手の受付にいつも座る黒い髪と目の少女が、嬉しそうにツバメを出迎えてくれた。 「あー、ツバメくんだ! 一か月ぶりだね!」  この診療所には、外来室と処置室と、医師の居室がある。待合はなく、外来室に沢山あるドアの外側で、来訪者は大体待たされるのだが……。 「ツバメくん、さっきからずっとツグミさんが待ってるよ! カイ先生の部屋、使っていいって言われてるから、今日は奥の方にどうぞ!」 「……へ?」  玄関と反対にあるドアからは、外来室のドアの前に続く。しかし少女は受付の中の、職員専用ドアを開けてくれた。 「ありがとう、菜奈」 「どういたしまして! 気を付けてね、ツバメくん!」   それが破格の待遇であり、また、下手な事をすれば危ない何かが起こるというのも、ツバメは少女の声から有難く汲み取る。
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