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ここは、一見は大きな屋敷の一部である、こじんまりとした珍しい診療所だ。
ところが、外来室に沢山あるドアの一つからは、ツバメの故郷に行ける。他のドアもそうして、色んな場所に繋がっているのだ。
そうして人間界と多様な異界をつなぐ、摩訶不思議な中継地点。
数多の場所で存在する「橘診療所」の客は、ツバメのように、人間でない者も多く――
「……あ」
「――!」
それでも、珍しい赤い髪以外はほとんど人間である、その着物姿の女性客。
鴇色の小袖を凛と着て、滅多に入れない医師の居室で所在なげにしている、懐かしい黒い目の人がいた。
「……鶫……」
肩につくかつかないかの、さらりと短い赤い髪。
端整な顔立ちが鋭く見えて、実際はお人好しな優しい娘。
「燕雨……」
少し前まで、広い御所の一角で、一緒に暮らしていたというのが信じられない。
それくらいに、入ってきたツバメをじっと見つめる大きな目は、不安げな親愛で潤んでいた。
座っていた長椅子から立ち上がった鶫は、何も喋れずにツバメを見ている。
いつも何でもソツなくこなすのに、たまにこうして、突然不器用になるのだ。
そんなところが不思議で、また、愛おしかった。
「――久しぶり、鶫。元気してた?」
会えて嬉しい気持ちのままにツバメが笑うと、鶫も、うん。と……少し顔を赤くしながら、小さく頷いたのだった。
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