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 ツバメには、一か月と少しぶりの鶫だったが、鶫からは半年ぶりになるらしい。  この人間界では、彼らの力が制限されると同時に、時間の流れも違うというのだ。 「やっぱり……三か月くらい大丈夫だったら、帰ろうかな……」  ツバメの妹は人間界で一年、高校に通うことになっている。それが終わるまでここにいると、故郷では五年もたってしまう。  あまり長く鶫の顔を見ていると、帰りたくなってしまうので、早めに診療所を出たツバメは一人で苦笑う。 「猫羽も危ないけど……鶫なんて、もっと危ないよな……」  悪い虫が、つかないように。鶫は父親の見張りが厳しく、あんなに可愛いのに独り身だが、狙っている者は沢山いるはずだった。  鶫のことばかり考えながら、診療所のある屋敷を出たせいだろう。  いつもは警戒し、なるべく顔を合わさないようにしている相手と、ツバメはそこでばったり出くわすことになった。  後で思えば、それも汐音の、あざとい罠だったのだろうが……。 「えっ――……兄、さん……?」 「――あ」  自分と同じく、この診療所を通って、人間界に留学に出された妹。  ツバメとは違い、屋敷の主に援助を受けている妹が、その仕送りを受け取る日が今日だったらしい。 「……久しぶり、猫羽」  ツバメは妹に内緒で、人間界に来ていた。だから住む場所も少し離れた郊外にしたのに、見つかってしまうと世話がなかった。
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