_序

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 ここ数日は本当に雨続きで、やっと晴れ間が見えたのが今朝の話だ。  儚い太陽だった。同居人が手洗いの洗濯物を干そうとしていたが、あれはどうなったのだろうか。 「あ、しまった……着替え、もらっておけば良かった」  彼が外で稼いでくる代わりに、家事はもっぱら、同居人が頑張っている。といっても彼らの生活に必要な事は人間程に多くないので、同居人が趣味でしているようなものだ。  彼の頼みで高校に通う同居人は、先月辺りから体調が悪い、とよく学校を休んでいた。元々朝が弱いらしく、今朝は辛うじて起きていたものの、登校時間直前に寝付いてしまった。  彼も最近夜が遅く、悪夢にうなされるので、昼近くまで眠ってしまった。その結果がこの、土砂降りの中の街歩きだ。  彼自身は、濡れ鼠になるのは慣れている。彼が行く先は全て雨になるので、いちいち傘を持つのが面倒なのだ。  しかし水を滴らせながら下宿に上がろうとすると、同居人が文句を言う。この国に降る雨は汚れているので、匂いが悪いのと、後で掃除が大変らしい。  けれどもう、同居人が文句を言うこともない。今日派手に部屋を汚しているのは、他ならぬ同居人だ。  血まみれになったフローリングというのは、どうキレイにすればよいのだろう。掃除する気なんて全くないが、他人事のように彼は、雨滴に叩かれながら考えていた。
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