_序

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 最後に同居人が動いていたのは、朝にごそごそと洗濯物をいじっていた時だ。  彼が先程目を覚ますと、横向きにうずくまる同居人を中心に、赤い小川が静かに湧き出していた。  何てことだ。と驚きながら、自分を見ると真っ赤だった。  右手と寝巻に確かな返り血。鏡の中には、血の気のない青い顔に似合う、冴えない銀髪の自分がいる。  その銀色を見て、またやってしまった。彼は咄嗟に、そう思うしかなかった。 「クセなんだよな……隙があると、殺したくなるの」  銀髪な自分の欠点を知っている彼は、なるべくそれを抑えて生活してきた。けれどヒトには誰しも、やらかしてしまう瞬間がある。  咎められてもどうしようもない。彼はそういう生き物なのだ。  雨の神なので生き物でもないかもしれない。神だから別に逮捕される心配もない。  それでも妙に残念で、あのままその場にいたくはなかった。  同居人のことは気に入っていた。だから一旦、現実から逃げようと思ったのだ。  時間を置けば、いつも大体、彼の場合は何とかなってくれる。  だから気軽に、同居人も殺してしまうのだろう。洗濯物をどうにかしてくれるまでくらい、待てば良かったと心が痛んだ。
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