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一瞬目を疑った。
野生化したCDが犬や猫を襲う事例はあっても、人間を襲うことなどありえないと思っていたからだ。
しかし現に目の前では先輩が大量のCDに襲われている。
僕はすぐさま先輩の体からCDを追い払った。
野生化した大量のCDたちは飛び跳ねるようにあたりを舞い、僕に向かって攻撃してくるものもいる。僕は必死に抵抗し、CDたちはそのたびにキラキラと光を反射させた。
その姿を見たとき、先ほど霧の中で見たトビウオのようなものの正体が大量のCDであったことを悟った。そして同時に段ボールのことも思い出した。
誰かが森に捨てたのだ。大量のCDを。
段ボールに入れられ、主を失ったCDはやがて段ボールを食い破り、この森で野生化したのだ。1枚ならどうということはないが、大量となれば話は別だ。群れをなした大量のCDによってとうとう人間が被害にあう事態となった。
知らせなければ。この森は危ない。救急車を呼ばなくては、それから警察も。
発信ボタンを押す僕の足に激痛が走り、その場に倒れ込んだ。
見ると僕の右足にはCDがまとわりつき、右足首からは出血しているのが見えた。
その出血箇所を目がけて、さらに数枚のCDが折り重なるように飛びかかってくる。
先ほど僕がたき火の前でうたた寝をしていたとき、先輩が言っていた言葉が脳裏によみがえった。
「音楽が死ぬのを見届けるくらいなら、音楽に殺される方がましだ」
後方からはさらに大量の丸い円盤型をしたトビウオたちが、僕を目がけて一斉に迫ってくるのが見えた。
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