0人が本棚に入れています
本棚に追加
トイレへ行くといったっきり、先輩はなかなか戻ってくる気配がなかった。
先輩の足音と鼻歌が聞こえなくなってからは、静寂があたりを包み、たき火の中で木の枝がはじける音だけが、かすかに聞こえてた。
霧の中に妙な気配を感じたのは、先輩がトイレに行ってからしばらくしてからだ。
最初は先輩が戻ってきたのかと思ったが、気配のする方向はトイレの方向とはまったく異なっており、足音も聞こえなかった。
目を凝らして見てみると霧の中がかすかに輝いて見える。きらきらとした光の帯が横に広がり、ふわふわと浮遊しているようにも見えた。
まるでトビウオの群れのように地上から少し離れた位置を移動していくその一団は、やがて霧の向こうに消えていく。そしてその一団からはぐれるようにして、ボトッと何かが地面に落ちた気がした。
霧の向こうになにかがある。姿は見えないが、地面に落ちた「何か」の気配はずっとその場から消えなかった。僕は不安に駆られたが確認しなければその不安が消えないような気がして、ゆっくりとその「何か」の確認に向かった。
落ちた場所から動く気配がないことから、それが生き物ではないのではと思っていたが、その予想は的外れではないようだった。
霧の中をおそるおそる歩いていくと、足元に現れたのは段ボールだった。
引っ越しなどに使うような大きめの段ボールで、よく見ると段ボールは穴だらけのボロボロで、ところどころひどく破れていた。
なぜこんなところに段ボールが捨てられているのか分からなかったが、奇妙な破れ方をしているその段ボールに、なぜだかひどく胸騒ぎがした。すぐさま来た道を引き返しテントのある場所まで戻ってみるが、先輩はまだ帰って来ていない。
いくらなんでも遅すぎる。僕はトイレのある方向へ足早に歩を進めた。
霧の中をしばらく行ったときだった。「ううっ」といううめき声が聞こえ、その声の主が先輩であることはすぐに分かった。
そしてトイレの前で倒れて血を流している先輩の体には、大量のCDが貼りついていた。
最初のコメントを投稿しよう!