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カン、カンと金属の音。そして、決まってギシッと軋むところがある。でもそれを気にすることはなく、私は上へと上がっていく。
『流星群』。今日の22時くらいから、西から東へ向かって流れるらしい。何年かのうちの今日だけ、綺麗な流星を見ることが出来る。
星を見よう。22時に、あのビルの屋上で。本当はビルの屋上は立ち入り禁止だけれど、そうやって、あの人と約束したのだ。
そんなことを思い出し、少々ニヤニヤしながら屋上まで辿り着くと、すっかり息は上がっていた。
「ごめんね、おまたせ!」
と精一杯声を出してあたりを見渡す。でも、君は約束のここにいない。そうなると一人で喋っていたことが無性に恥ずかしくなって、とっさに腕時計を見てみる。一年ほど前に彼に買ってもらったそれは、もう22時を5分ほど過ぎていた。なぜ?もしかして…忘れてしまったのだろうか。
「ちがう!」
とっさに私は自分自身に、両手でビンタした。冷え込みのせいで、その痛みがいつもの2倍くらいに感じられる。
なんでこんなことを考えてしまうんだろう。きっと、仕事が遅れているんだ。きっとそうだ。もう一度、腕時計を見る。それでも秒針は、残酷に時を刻んでいた。いてもたってもいられなくなって、コートのポケットからスマホを取り出して、指を動かす。今どこ?もうついたよ?…そんなことを彼に送ってみる。既読はつかない。
静寂が、怖い。
もしあと5分の間に彼が来なかったら、帰ろうか…いいや、流れ星が見えるくらいまでは、待っていよう。そう思って、彼をひたすら待ち続けた。北風が、足元を通り抜けても、無視し続けた。
10分くらいたって、それでもまだあの人は来ない。冷え切った手に息を吹きかける。もう真冬だ。マフラーでもしてくればよかった。さきほどの白い息が、何も無い空間へと消えていく。それはなぜか虚しく感じられた。
もう少しくらい、待っていよう。
その瞬間、夜空を一つの筋が通って、そのあと何本もそれが過ぎていった。
流星群だ。
本当にあの人は、忘れてしまったんだ。そう確信すると、必然的に涙が零れた。呆然と、空を眺める。いくつも光が流れていって、全てが無に帰ったように、静かだった。そこへ、聞き覚えのある音が聞こえてきた。あの、階段の音だった。まさかと思い振り返ると、彼がいる。恥ずかしそうにはにかんで、私と同じように息を切らしていた。
「ごめん、 待っ
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