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窓から差し込み、僕の顔を撫でる夕陽が次第に弱くなってゆく。それとともに下がる室温に耐えかねて、僕は暖房器具の電源を入れる。教室には、僕が1人で机の上の便箋と向かい合うだけだ。どうしても書かなければいけない。狂おしいほどにそう思いながらも、いまだに筆は、その白を汚すことさえできないでいる。
きっかけを探して、視線を彷徨わせる。
ドア、僕が入って来たドアだ。教壇、教卓、黒板、机、椅子、机、椅子、机、椅子、机、手提げ袋、ロッカー、窓、カーテン、窓、鍵、埃、戸棚、時計、消しゴム、ドア、ドア、ドア、ドア、ドア、ドア。
あのドアを開けた先には何があるのだろうか。当たり前や常識といったものの信奉者ならば、いつもと変わらない廊下があるだけだと素気無く言うだろう。しかしながら、チョコレートの箱は、開けてみるまで中身がわからない。そう考えると無性にドアを開けてみたくなる。開けた先に何があるかではなく、重要なのは開けるか開けないかの一点のように思える。ドアを開けた先にはいつも通りの廊下がある。その一連の状況が、僕に言い知れない満足感を与えてくれる。そしてその満足感は同時に、より一層書くことを躊躇させるものであることにも、僕は気付いてしまう。自分の中に、自ら生み出した矛盾に気づき、もっと常識的にならなくてはと、自戒する。
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