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『麻倉って、意外に不器用なんだな』
『どういう意味ですか?』
『ん……。つらいなら、とりあえず目の前にいる適当な男に寄りかかって甘えておけばいいのに、麻倉はそうはしないんだ。律儀なんだよ、好きな男にも好かれてる男にも。でも、そういうところも好きだったんだよな……』
課長は私に「困らせるようなことばかり言ってごめん」と謝ると、今後は元の上司と部下に戻れるよう努力するからと言って、私の前から立ち去った。
「それじゃあ麻倉さんは今日は何も予定ないんですか?」
言葉をオブラートに包むということを知らない高田くんの物言いに、思わず苦笑が漏れる。
「ええ、ないわ。でも、私も午後は打ち合わせに出てそのまま直帰する。こんな日に一人寂しく残業なんてしたくないもの」
「そうですよね。今日くらいはお互い早く帰りましょう!」
そう言うなり、猛然とキーボードを叩きはじめた高田くんのことが、私にはなぜか眩しく思えた。
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