そのままの君に

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 その日の午後。予定していた社外での打ち合わせが早めに終わり、時間を持て余した私は、会社近くのアーケード街を当てもなく歩いていた。  街中至る所にクリスマスのディスプレイが施され、どこからともなくクリスマスソングが流れてくる。  両手にケーキやプレゼントの箱を抱え、楽しそうに話しながら通りを行きかう人々の中で、突然自分のスーツ姿がとても異質なものに思えた。  せめてクリスマスケーキだけでも買って帰ろう。そう思い立って肩にかけていた鞄を持ち直したときだった。  目の前に、デジャブのような光景が広がった。  レンガ調の壁に貼られた大型のポスター。その中に、泣き顔の私がいる。  驚いて足を止め、ポスターを覗き込んだ。三浦さんの個展の開催を知らせるポスターに、彼に描いてもらった最後の私の絵が使われていた。
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