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「麻倉さん、あなた……もうモデルはやらないの?」
「……はい」
一言そう漏らすと、夏希さんは私を見て複雑そうな顔をした。
「ひょっとして日菜子さんのことを聞いたの?」
「千石さんのお宅で、三浦さんが描いた日菜子さんの絵を見せていただいたんです。それで知りました」
「そう……」
夏希さんは、組んだ指の上に顎を乗せ、大きく息を吐き出した。
「夏希さんが私をモデルに、とおっしゃったのは、私が日菜子さんとよく似ていたからだったんですね。
核心を突く私の言葉に、夏希さんは一瞬目を見開くと、静かに目蓋を伏せた。
「……ええ、そうよ。黙っていてごめんなさい。あの時は私も、藁にも縋る思いだったの」
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