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前編
「ゴメンナサイネ。私、他に好きな人ができたの」
僕の頭の中は、舞い散る粉雪のように真っ白になった。
彼女は阿呆みたいに呆ける僕に、もう一度、ごめんなさいねと言った。
僕が何か言おうとした瞬間、鋭いクラクションの音が響いた。
見ると、真っ赤なポルシェが止まっていた。
運転席の窓から、僕の知らない男が彼女に向かって手を振っていた。
彼女はその男に手を振り返すと、僕をちょいと見て小走りに車に向かった。
彼女が乗り込むと、そのポルシェは風のように走り去った。
そして、そこにはただ哀れな男が取り残された。
聖夜に……。
誰かのために鐘は鳴る
「あ~っ!ちくしょう!なんなんだよ!女はみんな金か!?
僕のような貧乏学生なんて、相手にできないって言う訳か!」
僕はそう叫ぶと、勢いよくコップを置いた。
「おやじ。もう一杯」
「お客さん。もう、そのくらいにしておいた方が、いいんでないですかい?」
なじみの屋台のおやじは、そう眉をひそめた。
「いいんだよ!僕の身体なんだから!」
僕はそう言って、コップをおやじに向けた。おやじは仕方なさそうに酒を注ぐ。
大体、今夜はこんなチンケなところで過ごすはずではなかったのである。
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