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後編
「こんなところに、隠れていやがったか……」
男の声が倉庫内に響く。
参ったな。こりゃ。
「さあ、おとなしく出てくるんだな」
やなこった。
そう言いたかったが、ぐっと堪えた。
少女は怯えきったように、僕の腕にしがみついた。
堪らなく可愛い……が、さすがにそんな甘い感情は湧いてこない。
「さあ、隠れていても無駄だぜ?早く出て来い。蜂の巣になりたくなかったらな」
男の気配は確実に迫ってくる。
もう、これまでか……!?
その時、少女がいきなり囁いた。
「あなたの名前……」
「は?」
「あなたの名前が、知りたいんです……」
少女の目は真剣だった。
もしかしたら、これでこの綺麗な瞳は見納めかもしれない。
それに、僕もまた彼女の名前が知りたかった。
「私はメイヤです……。あなたは……?」
「僕の名前は、隼人。藤堂隼人。この名前、忘れないでやってくれよな!」
僕はそう言うと、そっと両手を頭の上に掲げた。
「ほう?やっぱりそこにいたか。よしよし。いい子だな。さあ、その少女をこっちに、引き渡せ」
「嫌だね」
「あん?」
男は思いっきり表情を捻じ曲げた。
こめかみに、太い血管が浮き出しているのが遠目でもわかる。
「聞こえなかったのか?嫌だと言ったんだ」
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