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「あと一個、どうしよう」
綺麗にラッピングされているのにも関わらず、ひとつ、ぽつんとわたしの手のひらに居座るバナナマフィン。
家で作った10個のマフィンも、これとほとんど同じ姿形をしていた。
うち5個は学校に持ってきて、ひとつずつ5人に配る――はずだった。
生憎、5人のうちひとりが欠席していた。
それじゃあ渡すに渡せないし、明日渡せばいいや、とカレンダーを見ると、今日は金曜日だったことを思い出す。
手作りのお菓子は日持ちしない。
「何それ、うまそう」
思考に浸っていたので、突然降ってきた低い男声に驚きマフィンを落としそうになる。
振り向くと、教室には西日が差し込み、わたしの座る椅子も机も赤く染められていた。
クラスメートは消え、声の主である、隣の席の塚本圭(ツカモトケイ)の顔がダイレクトに視界に飛び込む。
「うわあ!」
「なんだよ、人の顔見て驚くなよ。失礼な奴め」
「え、あっ、えと、ごめんっ」
塚本くんは、素直に謝るわたしに向かって、ニヤリと笑った。
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