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1時間後、俺は草原のど真ん中で足を抱えて座り込んでいた。どこまで歩いても緑色の地平線が続き、完全に気力が尽きていた。
「はは、落下死を免れたと思ったら今度は餓死ですか………」
やけくそに笑う。一難去ったらまた一難である。どこまで見渡しても緑色の地平線。食べるものなんてあるはずもない。もちろん飲み水もない。このままでは餓死確定である。
「どこが文明社会だよ………!なんもねえじゃねえか!」
叫ぶ。叫ぶが、なにも変わらない。この最悪の状況が変わるわけがない。わずかに回復した気力を振り絞り、俺は再び立ち上がる。
するとどうだろうか。一瞬、視界の隅に黒いなにかが映る。思わずそちらを見る。そこには確かに黒いなにかがあった。一瞬で気力が回復し、それに向かって俺は走り出す。
ある程度近付いたところで俺は足を止める。それから顔をそれを見る。
「はは、さすが異世界。こんなのもいるのか」
それは、竜の死骸だった。腐臭が離れているのにも漂ってくる。思わず鼻を押さえる。それからその死骸を回り込むように反対側へと進む。
こんな目立つものがあるのだ。ここから先はまだ未確認だと考えていい。なにか見つかるといいな。そんな思いで通りすぎろうとして、気づく。
その竜の死骸が明らかな人為的な道の上に転がっている、ということに。コンクリートのような道ではないが、しっかりと固く固められている。それに気付いた俺は笑みを浮かべた。この道の先にはなにかがあるのは間違いない。希望が見えてきた。
道を進む、その前に俺は竜の死骸に一礼する。もとはここを通る人間を狙っていたのかもしれないが、今の俺には道の在処を教えてくれた目印だ。そこに感謝の意を示したかった。
ずぅん
頭を下げ、上げる直前に地面が揺れる。そんな揺れに俺は咄嗟に顔をあげた。
竜の死骸、それが立ち上がり、目の前で俺を見下ろしていた。いや、死骸ではないのか?それとも竜のアンデッド………?
竜が吠える。ぎゃおおお!というその叫びの前に、俺はくるりと背を向け、脱兎の如く逃げ出す。刀一本で勝てる相手じゃない。それだけははっきりとわかる。
雄叫びをあげながら、竜は俺を追尾する。
「た、助けてくれええ!」
情けなく悲鳴を上げながら俺は全速力で走り続けた。道に沿って。
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