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「それであんたーータマは何者なんだ?」
好きに呼べ、なんて言うからペットとして代表的な名前で読んでやる。基本猫に付ける名前だが、ひねくれてる奴なら犬に付ける人もいるだろう。人のこと言えない気がするが。
「………神相手によくそんな戯けたことを言えるな」
男の額に青筋が浮かび上がる。好きに呼んでいい、と言ったのはそっちなのに………。
「神だ、なんて言われて信じるやつはいない。よほどバカじゃない限りな」
俺は冷静に返す。
「なるほど、確かにそうだ」
青筋を浮かべたままそいつは確かに頷く。
「なら見せてやる。神の力ってやつを」
男が右手をあげる。どうせ何かの手品を使って信じこませよう、という魂胆だ。その手より、周囲に気を配る。この手の手品は視線を誘導し、相手の意識の外からことを起こすのが常套手段だ。だからその右手を見る必要はない。それよりどんなトリックなのかを見抜く。
「異様に冷静だな。だが、それもここまでだ」
俺の視界の外で男が手を払う。するとどうだろうか。俺が先程まで感じていた全身の痛みがなくなる。どうやら鎮痛剤を射たれたようだ。いつ、どうやってなのかはまるでわからなかった。
「………随分と効果の高い鎮痛剤だな。副作用とか平気なのか」
視線を戻し俺は男に告げる。これほどの薬の効果だ。かなりヤバイ気がする。
「薬じゃない。お前の体を治療した。動いてみろ」
男のその言葉に俺は半眼になり、ゆっくりと体を起こす。確かに痛くない。痛覚以外の感覚もきちんと作用している。それどころか、問題なく体を動かすことができた。鎮痛剤ではこんなことにはならない。
「………治ってる」
その事実に俺は驚愕する。ありえない。どんな医療を行えばこんなことが出来るのか。元々感じていた激痛がにせもので、今が正常なのだろうか。が、そんなことはない。俺は確かに事故に遭ったのだから。俺の記憶がそれを証明している。
「これが神の力だ」
男が静かに俺に告げる。
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