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栞はほどけた手を握ったまま、もう一度カイトの正面に戻った。
栞はカイトの目を見て言った。
「わたしは、あなたを信じています。だからどうか前を向いて、わたしを見て」
カイトの頬に涙がつたっていた。
手は一度離れ、白い布と共にふわりと栞の体を包んだ。
小さく嗚咽が聞こえた。
「栞。会いたかった」
「わたしも。だから、もう大丈夫」
カイトは少し照れたように、微笑んだ。
栞のよく知る、あの王子様の微笑みが戻ってきていた。
風の強くなった滑走路を後にして、一行は車でカイトの家へ向かった。
丸みを帯びたシェイプのスポーツカーで飛ぶように森を走り抜けると、きれいに舗装された道路に出た。
時折見えるサラベナ語と日本語が併記された看板は、この道路が日本のODAで作られたことを示すものだった。
やがて高層ビルが見え、ジャングルの真ん中にあるとは思えないほど美しく整備された近代的な都市が姿を現した。
同時に街の中心部に近くなる程、たくさんの燃やされた車や、破壊された壁、倒壊したビルの姿も見られた。
クーデターの残骸だ。
黙って外を見るしかない栞の横で、カイトは言った。
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