第26章

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「残念ながらまだすべてを撤去することができていません。戦闘は局地的なものでしたが、王国軍、将軍派、双方にかなりの死傷者が出ました。またクーデターが起こってしまったことにより、国民感情も二つに分裂してしまった。失われたものは多い。想像以上に多いのです」 美しい横顔が歪む。 「しかし、もう一度この国を立ち上がらせるためには、まず自分が強くあらねばと思います。でも同時に、国民一人一人の幸せを考えなくては、国王として存在している意味がありません。今、この国は力を失っています。ここからは、皆の力を一つに出来なければ、皆の幸せなどないのです」 自らの王としての資質。 それを今から試そうとしているのだ。 強い意志を感じる、厳しい横顔のラインがそれを語る。 車は街を抜け、ふたたび森へと走っていった。 道路には対向車も歩行者もいなくなった。 喬久は車のフードをはずした。 ざわざわと木立の音が大きくなり、ドラセナ・プティエの清々しい香りが鼻に入ってきた。 サラベナの森の匂い。 異国の、でもなぜか懐かしい。 邸宅は山の斜を背にして建っていた。 まだ新しいコンクリート作りで、王宮のようでもリゾートでもなく、どちらかといえば要塞といった趣きだった。 車から降りたカイトは申し訳なさそうに言った。 「戻って最初に行ったのがこの家の再建だったのですが、その時はまだ情勢が危険だったので、こんな厳つい見てくれの建物にしてしまったのです」 高い壁と重々しい門。 監視カメラがあちこちから狙っている。     
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