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「言えなかったの。ごめんなさい」
「いいんです。あなたが無事なら」
どこかで同じことを言ったような気がした。
「そうそう。あの子たちに会いたいわよね」
そう言うと、部屋の中に一人の男性が入ってきた。
栞は一瞬あの時の中国人マネージャーと思ったが、違う人だった。
「ほら、ピクセル。で、これがシオリ。昨日シャンプーしたからつやつやでしょ」
白と黒の、2匹の猫。
「あの、マーさんは」
エステラはピクセルを抱いて言った。
「マーはね。あの人は中国の人だから。奥さんなんて、知ってる? 元ミス上海2位なのよ。すごい美人よ。あの背の低いこぶとりのおっさんの奥さんがよ? 」
エステラは大げさに笑って見せてから、声を低くして言った。
「だからね、先に解雇してしまったわ」
エステラ・リーといれば。
事件に関りがあるかもしれないとなれば、迷惑がかかる。
だから、周りの人すべてを自分から切り離し、切り離し、ここまで逃げてきた。
頬に、伏せたまつ毛の影。
ふいに、やわらかい毛の感触。
大きくなった黒い猫のシオリ。
指を鼻先へ近づける。
すんすんと匂いを嗅ぐ。
額を撫でてやると、直に膝に頭をつけて目を閉じた。
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