第26章

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「言えなかったの。ごめんなさい」 「いいんです。あなたが無事なら」 どこかで同じことを言ったような気がした。 「そうそう。あの子たちに会いたいわよね」 そう言うと、部屋の中に一人の男性が入ってきた。 栞は一瞬あの時の中国人マネージャーと思ったが、違う人だった。 「ほら、ピクセル。で、これがシオリ。昨日シャンプーしたからつやつやでしょ」 白と黒の、2匹の猫。 「あの、マーさんは」 エステラはピクセルを抱いて言った。 「マーはね。あの人は中国の人だから。奥さんなんて、知ってる? 元ミス上海2位なのよ。すごい美人よ。あの背の低いこぶとりのおっさんの奥さんがよ? 」 エステラは大げさに笑って見せてから、声を低くして言った。 「だからね、先に解雇してしまったわ」 エステラ・リーといれば。 事件に関りがあるかもしれないとなれば、迷惑がかかる。 だから、周りの人すべてを自分から切り離し、切り離し、ここまで逃げてきた。 頬に、伏せたまつ毛の影。 ふいに、やわらかい毛の感触。 大きくなった黒い猫のシオリ。 指を鼻先へ近づける。 すんすんと匂いを嗅ぐ。 額を撫でてやると、直に膝に頭をつけて目を閉じた。     
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