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「涼香」
展示スペースの方から私を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、中庭に通じるドアの前に、和史が立っている。
「三浦さん、なんとか間に合ったみたいだね。……俺はそろそろ行くよ。ありがとう、今日は会えてよかった」
「課長、今日は本当にありがとうございました」
別れ際、課長は私に向かって手を差し出した。私も課長の手を取り、握手を交わす。ふいに、課長と視線がぶつかった。
「君がここで何かつらい思いをしているようなら、今度こそ東京に連れて行こうと思ってたけど……、その必要はないみたいだね」
「課長……」
「ごめん、今度こそ行くよ」
握っていた手を離し、課長はまた私に笑みを残すと、和史に向かって会釈をして出口へと向かった。私はベンチの前に立ち、課長の姿が見えなくなるまで見送った。
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