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■扉の勇者と踊るヒーラー
「頼むから服を着てくれ」
俺は勇者だ。
ここは魔王城の最深部。
扉の向こうには、世界を恐怖に陥れんとする魔王がいる。奴を倒すべく、様々な苦難を乗り越え、四人の仲間と旅をしてきた。
大きな両開きの扉は、流石は魔王の間というべきか、凄まじい迫力だ。
左右非対称に施された、翼を持つ怪物のレリーフが目を引く。鋭い眼光、滑らかなカーブを描く翼、鱗の一枚に至るまで、完璧な美しさだ。
できることなら、今すぐ持って帰りたい。開いて閉じて、閉じて開いて。両開きのところをあえて片側だけ開いたりして、ああもう大好き、好き好き――
「こら、戻ってきなさい」
「……邪魔をするなら、相手が誰でも容赦はしない」
「同士討ち宣言かましてる場合じゃないでしょ。よだれ拭いてよ、変態勇者」
「む、これは。俺としたことが」
仲間の檄にはっとして、口元を拭う。もう少しで、魔王の卑劣な罠に屈するところだった。
恐ろしい扉だ、実にけしからん。なんとしても無傷で持ち帰り、厳重に封印しなければ。そう、勇者の名において、我が家に封印しなければ。
「もう一度言う。最終決戦だぞ」
各々に最適な伝説の装備の数々を手にしながら、まとめて袋に放り込んでほったらかしているなど、宝の持ち腐れもいいところだ。
「俺を見ろ。伝説の剣。伝説の兜。伝説の盾。扉の鎧。完璧だろう」
「ダウト。胸元で無防備に開きっぱなしの小扉、閉めて鍵かけてから言ってくれる?」
わからない奴だ。緻密な角度の調整を毎朝やっているし、磨き方も工夫している。
俺自身のパフォーマンスに大きく影響する、大事な要素だ。決して開きっぱなしなどではない。
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