■扉の勇者と踊るヒーラー

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「それに、何度も言うけどちゃんと着てるでしょ?」  両手をひらひらと振ってアピールする女に、苛立ちを隠せない。  裸同然の破廉恥極まりない出で立ちのくせに、俺を変態勇者呼ばわりし、あまつさえ開きっぱなしなどと侮辱してくるとは。  王国屈指のヒーラーである彼女は、パーティの回復の要だ。中でも、死者を蘇らせる秘術は素晴らしい。正確には、肉体から離れて間もない魂であれば、呼び戻せる場合がある、というところか。  傷付いた肉体を修復しつつ、同時に魂を呼び戻す手際は見事で、能力の高さは疑う余地が無い。  問題は、危機感が圧倒的に足りないところだ。特に魔法防御を施した訳でもない、透け透けの薄布一枚で魔王城を闊歩するなど、正気の沙汰ではない。  ついでに、少しでも気分が高揚すると最前線に躍り出て、誰かれ構わず回復しまくる悪癖まである。たまにわざと毒も盛る。 「お説教するなら、先に鎧を着替えて」 「いいだろう。互いの個性は尊重すべきだな。もうそっちは良い。だが今日だけは、絶対に前に出ないでくれ」 「それは難しい相談ね、だって楽しいんだもの」  楽しいのなら仕方ないな。などと誰が言えるものか。  最前線で魔王の一撃をくらえば、貴重な回復役を失うのだ。ついでに、大事なところで魔王を回復されたりしては、たまったものではない。 「大丈夫、私はオールシースルーヒーラーよ。全ての悪意は、私をすり抜けていくわ」 「控えめに言って、そのフレーズ全く入ってこないし格好良くもないからな。お外で知らない人に言うんじゃないぞ」 「さあ、いよいよね。平和な世界を取り戻しましょう」  俺の話までオールシースルーとは良い度胸だ。  決してすり抜けられない、強固な悪意を塗りつけてくれようか。  いや、駄目だ。ここで離脱されては最終決戦には臨めない。これが最後だと言い聞かせ、拳を握りしめた。
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