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■扉の勇者と魔法じじい
「わあ、いつになく真剣に怒っているんだね」
ふいに後ろから呼ばれて振り返る。
見れば、艶やかな金髪を揺らして、かわいらしい少年がぱちぱちと手を叩いていた。
「装備を整える最後のチャンスだからな」
繰り返しで申し訳ないが、扉を隔てた向こう側は、間違いなく魔王の間なのだ。
万全の態勢にしておかなくては、あっという間に全滅の目もありえる。
「最近、なんだか苛々しているよね。心配だよ」
澄んだ瞳を輝かせて見上げてくるが、それを見つめ返す俺の冷たい視線は、揺るぎないものとなっている。
理由は簡単。この、十代前半にしか見えない少年風の男は、御年二〇六歳。破壊の化身とまで謳われた、大魔術師だからだ。
限りなく不老に近い術を身に付け、魔力切れ寸前でもなければ、元の姿は拝めない。
ただし、限りなく魔力に特化した結果、装備可能なのは布の服のみ。杖やフォークは持つ気が無い、綺麗な女性にご飯を食べさせてもらうのが生きがいだという、控えめかつ筋金入りの変態だ。
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