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「魂胆を言え」
「こんたん?」
初めて聞いた言葉です、とでも言わんばかりに、首を傾げる。
魂胆でなければ、俺の大事なものを壊して誤魔化したいか、何か無理難題を押し付けるつもりか。
とにかく、この男が真正面から俺を心配するなど、魔王が百人に増えてもありえない。
「本当に心配しているだけなのに」
「黙って杖を持て。不死鳥の尾羽に、女神の祝福と竜の涙で清めた伝説の杖だぞ。これさえあれば」
「い、や、じゃ」
おい、口調。
などとやりあう気も起きない。こんなのは日常茶飯事で、ここにくるまで何百回と繰り返してきた。
「一応、理由を聞こうか」
「重い物は持ちたくないんじゃよ」
「どこが重いんだ」
「箸より重いものを持つと、魔力に影響するでな。いやというより無理なんじゃ……すまんの」
馬鹿な。持ちたくないのではなく持てないだと。そういう致命的な事情は、雇用契約の前に言って欲しかった。
いや、待てよ。あれはいつだったか。そうだ、思い出した。
「お姫様抱っこだ」
「してほしいのか? またおかしな扉を開きよって」
「違うわ、早く閉めろそんなもん。してたろ、先週」
さっと目を逸らしたじいさんに、杖先を突き付けて迫る。
ここに乗り込む前、最後の街に立ち寄った時の話だ。こいつは確かに、街のバーで働くお姉さんを軽々とお姫様抱っこして、文字通りお持ち帰っていた。
なんなら目があって「みんなには内緒じゃぞ」と言わんばかりのウインクまで頂いたじゃないか。余計なところまで思い出してきた、忌々しい。
「持てるな、杖」
「不死鳥アレルギーなんじゃ」
「なるほど、聞き飽きた手だな。竜のヒゲ製、世界樹の枝製、魔法銀製、千年岩製、さあ選べ」
一本しかないと思ったら大間違いだ。
なにしろ、伝説の武器防具は、根こそぎ狩り尽くしてきた。何故なら、そうしたアイテムが安置された入り口には大抵、伝説の扉があるからだ。
扉目当てに一人で向かったことも、一度や二度ではない。勇者をあまりなめてもらっては困る。
愛と勇気と行動力。扉愛と扉勇気と扉行動力があれば、ちょっとした伝説など、何の障害にもなりはしない。
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