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「最近、疲れてるんじゃない? あんまりご飯も美味しく食べれてないでしょ? 隠しても駄目だよ」
「キャラを巻き戻しても無駄だ」
毅然とした態度を保ちつつも、俺は大きく動揺していた。
確かに最近、何を食べても味がしないし、疲れも取れない気がしていた。
柄にもなく、緊張しているのだと言い聞かせてきたが、何か知っているのか。
「その顔……やっぱりね。最終決戦を前に、自分の体調を仲間に明かさないのってどうなのかな」
何も言い返せない。確かにその通りだ。仲間を信頼しきれていなかったのは、俺の方か。
彼らは彼らなりの矜持を持って、戦いに身を置いている。多少、はだけていたからなんだ。ここまで無事に乗り切ってきたじゃないか。
「……すまなかった」
「ううん、いいんだよ」
「許してくれるのか?」
もちろんだよ。そう言ってにっこりと微笑むじいさんを見て、不覚にも涙腺がゆるむ。
いいや、不覚にも、ではない。きっと素直に泣いてしまえば良いのだ。すっきりとした気持ちで、頼れる仲間と共に、平和を取り戻してみせる。
「だって、実験は大成功なんだから」
「は? 実験?」
「ご飯の味がしないんだよね?」
「ああ」急速に水分を失った口の中から、相槌を絞り出す。
「それはね、僕が食べ物の味と栄養をもらっているからなんだ」
「なんだと」
「疲れが取れなくて、目も霞むでしょ?」
「まさか」
「そうだよ! 君の元気は全て、僕に蓄積されるように魔法をかけたんだ。見て、この肌の艶! こんなに上手くいくなんて!」
なるほど、よくわかった。
にこにこと笑みを作る諸悪の根源に、俺も口角をつり上げて応じる。
「魔王の次は貴様の番だ、覚悟しておけ」
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