■扉の勇者と魔法じじい

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「最近、疲れてるんじゃない? あんまりご飯も美味しく食べれてないでしょ? 隠しても駄目だよ」 「キャラを巻き戻しても無駄だ」  毅然とした態度を保ちつつも、俺は大きく動揺していた。  確かに最近、何を食べても味がしないし、疲れも取れない気がしていた。  柄にもなく、緊張しているのだと言い聞かせてきたが、何か知っているのか。 「その顔……やっぱりね。最終決戦を前に、自分の体調を仲間に明かさないのってどうなのかな」  何も言い返せない。確かにその通りだ。仲間を信頼しきれていなかったのは、俺の方か。  彼らは彼らなりの矜持を持って、戦いに身を置いている。多少、はだけていたからなんだ。ここまで無事に乗り切ってきたじゃないか。 「……すまなかった」 「ううん、いいんだよ」 「許してくれるのか?」  もちろんだよ。そう言ってにっこりと微笑むじいさんを見て、不覚にも涙腺がゆるむ。  いいや、不覚にも、ではない。きっと素直に泣いてしまえば良いのだ。すっきりとした気持ちで、頼れる仲間と共に、平和を取り戻してみせる。 「だって、実験は大成功なんだから」 「は? 実験?」 「ご飯の味がしないんだよね?」 「ああ」急速に水分を失った口の中から、相槌を絞り出す。 「それはね、僕が食べ物の味と栄養をもらっているからなんだ」 「なんだと」 「疲れが取れなくて、目も霞むでしょ?」 「まさか」 「そうだよ! 君の元気は全て、僕に蓄積されるように魔法をかけたんだ。見て、この肌の艶! こんなに上手くいくなんて!」  なるほど、よくわかった。  にこにこと笑みを作る諸悪の根源に、俺も口角をつり上げて応じる。 「魔王の次は貴様の番だ、覚悟しておけ」
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