2人が本棚に入れています
本棚に追加
■扉の勇者と大槍の騎士とか大槌の戦士とか
大きく深呼吸をして、頭をクリアにした。
周辺の魔物を一掃し、今は落ち着いているとは言え、とても油断はできない。
手短に準備を整えなければならない。じいさんの始末は後回しだ。
「次はお前だ、鎧を着ろ」
「必要ありません、お引取りを」
かろうじて、大事な部分を紋章で隠し、身の丈を超える大槍をかついだ男が、涼しげな顔で即答した。
偽の回復薬を売って回る詐欺師を追い返すかのごとき、丁寧かつ毅然とした態度だ。実に腹が立つ。
大体、ソコについたソレはどうなっている。何故、どこにも支えが無いのに落ちたりずれたりしないのだ。
「僕の紋章が気になって仕方ないようですね。どうです、貴方も真実の扉を叩いてみては?」
完全に無視を決め込んで伝説の鎧を取り出すと、槍騎士の前に並べていく。こんな変態どもの相手を、真正面からしている場合ではない。
能力や触れ込みに踊らされ、バランスと人間性の一切を排して組んでしまったパーティだが、魔王さえ倒せばそれも終わりだ。
故郷に帰り、千の扉に囲まれた夢の館で、扉の海に沈んで過ごすのだ。
「早くしろ、後がつかえている」
一式を並べ終えると、短く言って、オリハルコン製の扉に向き直った。
仲間の装備は由々しき問題ではあるが、それ以上にこちらだ。
「やはり壊してしまうのが早道では?」
「駄目だ」
後ろから、ガチャガチャと音をさせながら飛んできた声に被せ気味で答える。
壊すなんてとんでもない。何年かかっても、必ず方法を見つけ出し、持ち帰ってみせる。
「ではどうするんです? 手持ちの鍵も、最上級の開錠魔法や解呪魔法も駄目なんでしょう?」
「少し待ってくれ」
最初のコメントを投稿しよう!