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わかっている。最後の扉を開けられなかった勇者など、扉があったら入りたいくらいの、入って閉めてそっと顔を出して周囲を窺いたいくらいの末代までの恥だ。
む、そっと周囲を窺うのは案外いいかもしれないな。帰ったら早速試すとしよう。
「策がないならどいて下さい。僕の上の槍で一突きにしてあげます」
「待てと言っている。上の下のとさらっと下ネタ入れてくるのもやめろ。さもないと、ご自慢の下の槍ごとへし折って握りつぶすぞ」
胸を張って隣に並んでいた槍騎士が、前屈みになって退がる。それで正解。俺は本気だ。
しかし、こいつときたら結局、鎧を装備していないではないか。さっきからガチャガチャと、装備中の雰囲気を出していた音は何だったのだ。
「なんだそれは」
振り返った俺は、思わず声を荒げていた。
オブジェだ。二つの籠手をてっぺんに、すね当てやら、もはやどこのパーツかわからない突起やらが、いびつな槍を形作って飾り立てられていた。
どこに? 決まっている。口数の少ない、重戦士の頭頂部だ。
「似合うか」
鼻の穴を膨らませる重戦士に、苦笑いを返す。
そいつが誇らしいのか。ああそうか、素材としては伝説の鎧だものな。
「はっはっは……ふん」
「ああ、そんな」
伝説の剣の鞘を一振りして、オブジェに終焉を与える。
重戦士よ、ああそんな、とは何事だ。悲しいのか。俺はもっと悲しい。
「無事に帰ったら、もっと格好良いのをつけてやる」
「本当か」
「約束しよう」
再び鼻の穴を膨らませて、満足気に頷いた重戦士に、大きく頷いて返す。
付けてやるとも、最高の仕掛け扉をな。
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